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Iさんから雑誌が送られてきた。Iさんは生保の社員で、仕事を通じて知り合ったが現在も仕事を離れて交流が続いており、現在秋田県の音楽ホールの事業部長をしている。1昨年音楽関係の仕事をしたときには意見を聞かしてもらった。

 

公共施設が経費削減と、イベントの充実を図るために設けられた「指定管理者制度」により現在出向中である。指定管理者制度は経費削減のほうばかり注目され、イベントの充実には程遠い内容のものが多いのだが、Iさんのホールでは大分違うようだ。

 

その活動の内容を季刊誌の「音楽文化の創造」にIさんが寄稿したものが送られてきたのである。Iさんのホールはバブル期に県が威信をかけて建設したもので、秋田杉を全面に張り巡らした700人収容の立派な音楽ホールである。開館当初は物珍しさもあって相当の集客があったのだが、開館人気も一段落して低迷期に入り、平均の入場割合は50%前後で推移するようになった。これを2年目で80%の集客率までに回復させたのである。名プロデューサーである。

 

Iさんが赴任して手がけたことの一つは、地元の商店街との交流であった。商店街とのコラボレーションを図るようになって、街に活気が戻ってきたようである。ホールや美術館などの集客施設は、ボツンとあるのではなく、地域との交流があって活性化が図れるものであり、共同で事業展開を行うことによって街の賑わいがうまれてくるものだと思う。年末に出かけた東京都現代美術館などはポツンとした施設の典型である。

 

事業企画の中で面白いのは、ワンコイン・コンサートである。それまで、月に1回無料コンサートを催していたが、2割程度の入りで空席が目立つコンサートであったようである。典型的なお役所仕事で、県民の施設であり仕方なくやっているという風が顧客にも伝わっていたのではないだろうか。

 

そこでIさんは、無料コンサートを廃止し、500円の料金を徴収して趣向を凝らしたコンサートを企画したところ、入場者はそれまでの4倍になったそうである。定員の8割を超えると、パッと見た感じでは満員のように見える。ガラガラの客席では聴衆も楽しくないし、演奏者の気合の入り方も違う。

 

ワンコイン・コンサートの成功要因は、対象とテーマを明確にした点にあるようだ。例えば「いやしの風コンサート」はサブタイトルに「もう一つの千の風」と題し、秋田県出身のソプラノ歌手に、異なるメロディーの英国版を唄ってもらい、中高年に癒しの時を提供している。

 

その他タイトルだけを並べると、「初夏の風はジャズの薫り」「0歳児からのコンサート」「夏の想い出コンサート」「大人のためのオルガン解体新書」「クリスマス・スペシャル」など楽しそうなタイトルが連なる。

 

500円でなくともよいと思うのだが、ワンコインという言葉の響が良いのであろう。観衆が集まる習慣ができると、新たな事業の芽が出てくると思う。秋田にあるだけに気軽に出かけるわけには行かないのだが、仙台あたりに出張の機会があれば足を伸ばしてみようと思う(仙台からも遠いのだろうが)。施設の概要は以下のホームページで紹介されている。http//www.atorion.co.jp/ongaku/

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