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私の好物の一つはタコである。子どもの頃や、若いころはそれほど好きな食べ物ではなかったが、40歳を過ぎて海釣りを趣味とするようになって、好物に加わったわけで、“遅咲きの好物”ということになろうか。

海での釣りを始めて最初に挑戦したのが、実はタコ釣りであった。新聞に「タコの上に海がある」という見出しに釣られてのものだった。タコの旬は真夏であるが、真水を嫌うという特性があり、空梅雨気味の時には“沸きがよい”とされている(タコの豊漁は“沸き”という言葉で表現する)。何十年に一度という沸きのよい年で、市原の海釣り施設でも豊漁になるほど海中がタコだらけで、新聞の釣果欄にも10~20という景気の良い数字が並んでいた。

勇躍して出かけたのだが、周りでは釣れ盛っているのに、無残にもおでこになってしまった(文字通りのタコ坊主だった)。見かねた釣り人が一杯恵んでくれたのだが、それが美味かったのである。それ以降、10回位タコ釣りに出かけたのだが、最高でも三杯しか釣れず、坊主になることも度々であった。それほど難しい釣りものでもある。

茹でダコにして食べるのだが、茹でる前に足を二本切り落とし薄造りにすると、格別旨いのである。生のタコはグニャグニャしており、素人ではさばききれない。そこで、冷凍庫に1時間ほどほりこみ、少し硬くしてから包丁を入れるのがコツになる。

タコは日本中でとれるが、明石と江戸前のタコが二大ブランドである。両方に共通しているのは、潮の流れが速い場所であることが特徴だ。東京湾は、富津岬がせり出している所で大きくくびれている。くびれがあることで、潮の流れが速くなるという理屈で、身が締まって美味しいブランドダコが誕生することになる。

東京湾のタコはスーパーの魚売り場には滅多に出ることはない。モロッコ産か北海道の水ダコばかりお目にかかることになる。ところが、「海老の桑田」を覗くと、「竹岡」と書いたタコが並んでいるではないか。去年も一度、「久里浜」と書いたものにお目にかかったが、一年ぶりの地ものの登場である。

700グラムくらいありそうなサイズで、一杯1200円とのことである。房総半島の土産物屋の水槽に、生きたタコが泳いでいることがあるが、5000円の値札が貼ってあり、茹でダコになっており薄造りはできないのだが、1000円ちょっとならお買い得ということで早速買い求めた。

足を二本ずつ、4日かけて食べる算段だったのだが、あまりにも美味く、ついついもう一本追加してしまった。頭もあるので、三本ずつ2日と、二本+頭で1日の、3日間の楽しみになってしまった。

今晩で食べきってしまうのだが、次に魚屋の店頭に並ぶのはいつになるのかわからない。しかし、電車で2駅の浦安には船宿が沢山ある(初めてタコ釣りに挑戦したのが浦安の船宿だった)。歩いても1時間足らずに行けるので、薄造りを食べたくなったら坊主覚悟で挑戦してみようと思う。今年もこれまで雨が少なく、沸きはよいように思うのだが…

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